刻々と変わる田園風景
岩手山を見て暮らしたい

「ラ・クラ」vol.104の住宅企画「楽暮スタイル」に掲載されたタック株式会社。
岩手県内にて、注文住宅、リノベーション、リフォームを行っているのが、
かつて輸入住宅を建てていた経験を生かした、洋館・洋風建築の設計・施工している。
今回、番外編として、岩手県雫石町にある洋館をご紹介。
岩手山と田園風景を眺め、スローライフを過ごしたいという方はぜひご一読を。

タック株式会社

全室から岩手山が見える家(岩手県雫石町)

この風景を見るため、ここに家を建てる

 岩手県を代表する秀峰・岩手山。
 深田久弥は著書『日本百名山』において、
「盛岡の風景は岩手山によって生きている。一つの都会に一つの山がこれほど大きく力強く迫っている例は、他にはないだろう。」と記している。
 石川啄木は「ふるさとの山に向ひて 言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」と詠み、宮沢賢治は盛岡中学2年で初めて岩手山に登ってから、盛岡中学・高等農林時代だけでも30回以上登るほど岩手山を愛した。

 現代でも岩手山を愛する人は多い。
 「岩手山を見て暮らしたい」
 約20年前、アメリカとカナダで長く暮らした夫婦が、岩手山を間近に望む雫石町の地に洋館を建てた。設計・施工を請け負ったのが、本誌「ラ・クラ」vol.104(2021年2月25日発行)に掲載された、滝沢市に本社を構えるタック株式会社である。
 夫婦がタックを選んだのは、アメリカン住宅にこだわったため。海外生活が長く、馴染んでいた海外でのライフスタイルを日本でも続けたかったからという。

岩手山側の外観。

 岩手山を一望できる高台に建つ洋館は、どの部屋からも岩手山が見える間取りとなっている。
 1階は間仕切りなしのワンルームになっており、2階は主寝室と子ども部屋2室のほか、浴室が設けられている。
 ちなみに、建物は玄関を真ん中にし、変型したくの字のような形となっている。この形は、家を訪ねてきたゲストを、両手を広げて迎えるのをイメージである。

カナダのヨーロッパ風テイストが感じられる玄関。左側はガレージ。

 玄関を入ると、キッチンから玄関ホール、リビングまで間仕切りなく広々としている。むかし見た外国映画に出てくる家のようだ。目前に大きな窓が広がり、庭へとつながっている。そして、その先には雄大な岩手山! 施主が願った「岩手山を見て暮らしたい」という思いが表現されている。
 朝焼けや夕焼けに染まる岩手山、雪化粧した岩手山が残雪を冠し、やがて緑の衣をまとい、紅や黄色の錦に彩られる。これだけの自然だ。きっと朝は、鳥のさえずりで目を覚ますこともあるだろう。時間を変え、季節を変える岩手山と自然風景ともに暮らす日々は、都会では得られないものだ。
 
さて、気になるデザインは、ヨーロッパを中心とした伝統的なテイストの中に現代的な要素も取り入れたものだ。インテリアも、窓枠や棚の細部にまでこだわっているのもうれしい。
 家族が集うリビングがとても広いのも特徴だ。空間をさえぎる柱がないのは、重量鉄筋造りだからとか。
 キッチンも海外仕様だ。シンクを中心に左側にコンロとオーブン、右側に作業台がある。やはり、ここからも岩手山が見える。

岩手山に向かって大きな窓が広がるリビング。
重量鉄筋造のため、1階は間仕切りなしで広く使える。
使いやすいコの字型のキッチン。

 2階へ上がると、主寝室と子ども部屋2室、バスルームがある。
 なぜ、バスルームが2階にあるかというと、「バスタブにつかりながら岩手山を見たい」という施主の希望があったからという。
 借景として岩手山を取り入れる。施主は岩手山を愛していたのだろう。

2階の子ども部屋。ゲストルームとしても使用できる。

岩手山の望む洋館に住んでみませんか

 宮沢賢治は、岩手山を愛し、何度も登山した。そして、石川啄木は冒頭に上げた「ふるさとの山に向ひて 言ふことなし ふるさとの山はありがたきかな」と詠んだ。この歌は、東京本郷弓町時代に作ったもの。啄木にとって、故郷を離れても岩手山の存在は大きかったのかもしれない。
 
 賢治や啄木のように岩手山を愛し建てられた洋館は、施主が引っ越したため、現在、空き家で、賃貸物件となっている。大家である施主の代わりに、タックが洋館の手入れを行っている。
 岩手山を望む場所に住みたい、洋館にあこがれている、雫石町に住みたい……と考えていらっしゃる方は、タック株式会社までご連絡を。

洋館の平面図