ふらりと訪れた秋田県湯沢市の「caffè gita」。店主の田村寛維さんと話すうち、いつしか話題は盛岡のコーヒー店「機屋」の話に。
 田村さんは、機屋の店主・関基尋さんをもっと知りたいと言う。そこで、個性が際立つ盛岡市と湯沢市の2人のコーヒー人による、対談が実現した。
 それぞれが焙煎した「ブラジル」を俎上に、コーヒー談義が始まった。


田村 昨日は緊張で、よく眠れませんでした。お客としてならまだしも、コーヒー屋として関さんと対談するなんて。湯沢で用意していた手土産もすっかり忘れてきてしまいまして。手ぶらではいけないと思って、花を持ってきました。

 そう、バラの花を持って店に立っていたんだよ(笑)。

田村 関さんにはバラが似合うと思ったんだけどなあ。― 笑―

ラ・クラ 関さんと田村さんは何度かお会いしたことがあるとか。

田村 私は以前から、いつか店に行ってみたいと思っていました。そうしているうちに関さんが店に来てくださって。以来、2、3回来てもらっているのに僕が機屋を訪れたのは初めてなのです。

 田村さんは、僕とはぜんぜん違うタイプのコーヒー屋だと思うけど、そこにセンスみたいなものを感じるから、何回か店に伺っています。

その香りの記憶よりも、
いい香りに焙煎したい。そう思っていてね。― 関

じゃあ、早速、コーヒーを点たてましょうか。まずは、田村さんのブラジルから。

田村 ああ。いつもと全然違う。

 そう? うーん。ウエッティな感じかな。僕はね、ブラジルはもっと枯れた味なんじゃないかと思っている。これだと、まだウエット。僕はもっと、乾いた味にしたい。

田村 ウエットか。

 だからダメという意味ではないんですよ。僕が目指しているブラジルとは違うだけ。

田村 僕が考えるブラジルの、いちばん香りと酸が広がる焙煎にしました。シティよりちょっと手前。これ以上焙くと、この豆の持ち味を弱めるのかなと。

 この豆が持つ、個性的な酸味を焙煎で処理しようとしたら、僕ならもう少し深く焙くかもね。

田村 ブラジルはいつも悩ましいです。
僕はブラジルの丘陵のように穏やかであってほしいと思っているのですが。

 じゃあ、ちょっと変わったブラジルを飲んでもらおうかな。
 これは、スマトラティピカ種で110年ものの古木からカットバック(※1)した木のコーヒー。2012、3年くらいに買ってエイジングしていたものです。田村さんのコーヒーを飲んだ後だと、これが焙煎の参考になるんじゃないかな。

(※1)カットバック…… 剪定して、植えなおすこと。

 ブラジルコーヒーは、これよりさらに深く煎るとブラジルじゃなくてもよくなる。

田村 このコーヒーには、僕のコーヒーにないものが多い。

 田村さんはコーヒーの産地に足を運んでいますよね。私は、産地に行くことには全く興味がない。ただ、かつてたくさんの店のコーヒーを飲み歩いていたから、「ブラジルはこういう香り」という、香りの記憶がある。その記憶で焙煎しています。産地の情報はあまりいらないし、生産者の顔も知らなくていい。

田村 「いらない」と言えるところに、芯を感じますよね。

 最近はみんな、質のいいコーヒー豆を仕入れて焙煎しているから、間違いない味になるでしょう。でも、私の場合、海外から入ってくるコーヒー豆は、例えるなら産直にある「曲がったキュウリ」でいい。曲がったキュウリを堂々と売っているところに、その産地が持つ「らしさ」があるんじゃないかな。

田村 確かに、最近、その産国の個性というかストーリーと対比してお店側のストーリーが弱くなっている気がしますね。

 次はブラジル ブルボン カルモシモサカ92年。

田村 28年前のオールドコーヒーですね。

 (コーヒーを点てながら)僕には、若い頃に出合ったコーヒーの味の記憶がある。ブラジルは香りが印象的だった。その香りの記憶よりも、いい香りに焙煎したい。そう思っていてね。
 銀座にあるカフェ・ド・ランブル(※2)の関口さんが、かつて「ブラジルはオールドに向かない」っておっしゃった。そこで、意地になってブラジルの豆をオールドコーヒーにしてみた。買った当時、この豆は全然美味しいと思わなかったけど、今は……。

 (※ 2)カフェ・ド・ランブル…… オールドコーヒーの名店。

その風土をコーヒーで表現できれば、
産地のストーリーを伝えられると思っています。― 田村

田村 うーん。これがオールドですか。これ以上寝かせると劣化するとか、あるのですか。

 毎年ピークだと思っている。カラっからの味になったら、その時はダメなのでしょう。これはちゃんと酸味も生きているよね

田村 「これが、オールドです」と出されなければ、わからないかもしれない。僕のコーヒーがウエッティっていう意味がわかりますね。

 ブラジルほど、昔から変わらないコーヒーはないですね。エチオピアを例にすると、昔は薄衣一枚で収穫作業をしていたのに、今はカラフルな衣装を着ている。味も同じように厚化粧になっちゃった。ブラジルはというと、やっぱり変わらない。

ラ・クラ 田村さんにとって関さんは、どんな存在ですか。

田村 同じコーヒーの仕事をしていますが、コーヒーという共通点がありながら、僕にないものを関さんは持っています。自分の味のコーヒーを作っている関さんを、僕は羨ましいと思っています。なぜなら、そこに日本のコーヒー文化があるような気がして。
 僕はコーヒーの産地に行ったりしているのですが、未だ自分の味を探しています。今の僕は、豆の持つ魅力をできるだけ再現したいという気持ちで焙煎しています。もう少し落ち着いてきたら、どんなモノづくりをしたいのかを考えて、再現から表現に向かわなければと思います。

 僕の時代は情報が少なかったから、自分の足で喫茶店に通ってコーヒーを飲んでみるしかなかった。だから、美味しいと思ったコーヒーの記憶がある。目指すものがあったのです。田村さんの場合は、産地で見たものや感じたものをコーヒーにしたいということなのかな。

田村 僕は、コーヒーの産地に行ったことはステイタスだと思っていません。行きたければ誰だっていけるし、海外のコーヒーの情報なんて、ネットでいくらでも見ることができますから。僕にとっては、農園にあった環境がコーヒーの興味に繋がっています。農園にある木に、見たこともない木の実が生っていたり、図鑑でしか見たことがないようなクチバシの長い鳥が飛んでいたり。そんな環境を見てきたから、鳥の鳴き声を思い出しながら焙煎したり、コーヒーを淹れたりすることができる。コーヒーの産地は、場合によっては貧富の差が激しい。そんなところも含めて風土だと思っています。その風土をコーヒーで表現できれば、産地のストーリーを伝えられると思っています。

 ところでコーヒーの生産国では、他国のコーヒーを飲んでいるのですか?

田村 インドネシアでは、ほかの国のコーヒーも飲んでいました。でもブラジルだけは「ほかの国? コーヒーと言ったらブラジルだよ」と微笑んでいました。ちゃんとプライドを持っているところがすごいですね。

 現地の人はどうやってコーヒーを淹れているのですか?

田村 割とエスプレッソが多い印象です。あとは、マシーン、ハリオ、プレスとかでしょうか。

 ふうん。ネルドリップなんてやらないだろうなあ。日本人しかやらない、面倒くさいコーヒーのスタイル。でも、美味しいものをつくるには手間がかかる。面倒くさいもの。最近は、そんなコーヒー屋も減ってきた。今のコーヒーは、舌で飲むのではなく、視覚で飲むコーヒーなのかな。

田村 今は、外国のコーヒー文化が流行っていますよね。でも日本には日本のコーヒー文化がある。そこは、残して行くべきだと思っています。
 例えば、日本文学が外国の文学に習ってしまったら、日本語の言葉が持つ美しさとか、独特な言い回しが合理的になってしまう。それでは淋しい。それと同じで。もっと自由で店主のこだわりがあっていいですよね。

 日本人らしいコーヒー。秋田には秋田のコーヒー。盛岡には盛岡のコーヒーがあっていい。さっきのブラジルなんだけど、ちょっとアレンジしてみました。同じ92年。

田村 こっちの方がふんわりしていて、柔らかいですね。美味しい。

 少し点て方を変えてみました。焙煎やドリップの技は、日本のコーヒー屋ならではのものがある。こうやって味を調整するのも技。今度、例のエチオピアを焙いて送るよ。感想を聴きたいなあ。

 自分のスタイルを貫く関さんと、コーヒーの産地の風土を表現しようとしている田村さん。まったく違うコーヒーのスタイルでありながら、今回、それぞれが焙煎したブラジルコーヒーを飲み比べたことで、共感する部分もあった。これからも、二人によるコーヒーの往復書簡は続きそうだ。

 ※ のところでコーヒーを飲んでいます。


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