地層のような強いエネルギーを感じる作品
九戸郡野田村。玉川漁港のほど近く、海を見下ろす高台にギャラリーIZUMITAがある。ここは、作陶家・泉田之也さんの私設ギャラリー。数々の個展を開催し、今では海外にもコレクターがいる作家だ。
ギャラリー内には、すり鉢や抹茶碗、花器、水盤といった器のほか、オブジェなどが展示されている。化石のようにも酸化した鉄のようにも見えるやきものの肌は、触れてその質感を確かめたい衝動にかられる。
薄く何層にも重なった作品「積層」は、地殻変動によって隆起し、あらわになった地層を想起させる。オブジェは、海の底で酸化した鉄のかけらのよう。
「子供の頃から経年変化するものが好きでした。変化していく姿に力強さを感じます」そう話す泉田さん。作品は、泉田さんの手から生み出されたものでありながら、自然のエネルギーを内包し、太古よりそこにあるかのような存在感を放つ。
アジア民族造形館がある南部曲り家住居群の中に泉田さんの「のだ窯」がある。風鈴の音が時折「ちりん」と聞こえるほか一切の無音の中、泉田さんは制作に励んでいた。なぜ、この地で作陶をするのか。
「海の近くで育ったので、海が見えるところが好きです。海岸に行けば、流木や化石があり、生命のエネルギーを感じます。また、この辺一帯は、粘土が採れます。県北は、薪、釉薬に使う灰、藁、鉱物などの素材が豊富です。私の命題として『身近にあるもので何が形作れるか』というものがあります。この地だから作れるものがあると思っています」と、泉田さん。
「積層」は、薄い粘土板の層の上から圧をかけた表現。圧をかける作家の力に対して、粘土の層が形をとどめようとする力が生じる。その歪みは、二度と同じものがない。
偶然の産物に見える形は、作家の心を映す鏡のようなもの。その造形をあるがまま受け止めるところに、オリジナリティがある。
人間が作ったものは、自然の中にあるだけで異質な存在感を放つものだ。しかし、泉田さんの作品にはそれがない。作為をできるだけ見せず、内に秘める。自我を削ぎ落とし、造形をあるがままに受け入れることで、自然と調和を図っているのかもしれない。
窯を後にし、玉川海岸に行った。そこには泉田さんが、3月11日に作ったという作品がある。それは、風雨や波しぶきに晒され、少し風化しながらもそこに形をとどめていた。その佇まいは、祈りに似ていた。
-
窯のそばにある柿の木。泉田さんは、風雨にさらされながら毎年実をつける姿に、強い生命力を感じるという。
-
音のない工房で土と向き合う。
- ギャラリーIZUMITA
- ■ 岩手県九戸郡野田村大字玉川5-79-17
- ■ TEL 0194-78-3403
- ■ 営業時間/ 10:00 〜 18:00(事前に連絡を)
- ■ 定休日/水・木曜、第4日曜