そのマリアージュは海を越えて

 鮨は、世界遺産に登録された和食の一角を担う日本の伝統食であり、また日本の文化でもある。祝いの席や、回転鮨などで味わう鮨は、私たちの生活に欠かせない大切な彩りとなっている。日本人にとって馴染みのある鮨。もし、ワインと出会ったらどんな味のハーモニーを奏でるのだろう。
 そこで、ラ・クラは、ソムリエ・松田宰さんに、鮨に合うワインはないかと訊ねてみた。
 「鮨の味を構成しているのは、ネタの旨みやミネラル、アクセントにもなるワサビのハーブ的な香り、酢飯の甘みや酸味です。これがワインの酸味、苦味、渋み、甘み、香りと出会い、口の中で融け合う。すると面白い化学反応が起こり、味わったことのない鮨の一面が、驚くほど口の中に広がるのです」そう話す松田さん。
 味わってみると、これまでの鮨の概念が覆され、驚くほどだった。研ぎ澄まされたソムリエの味覚に裏づけされたワインのペアリングによって、鮨の味わいがさらに広がった。
 今号では「回転鮨清次郎」を営む、盛岡の田清魚店の協力で、鮨とワインの饗宴が実現。
 ヨーロッパ、南米、北米……、世界の多様なワインと、鮨のマリアージュをぜひお試しいただきたい。


ワインバー アッカトーネ
オーナーソムリエ
松田宰

JSA 公認ソムリエ。オーストリアワイン大使選抜コンテスト金賞。
著書に「Vinissimo(ヴィニッシモ)」がある。


田清魚店
四戸光太郎

田清魚店肴町店のスタッフ。すしを担当。2階にある肴町酒場は、魚料理と地酒を味わうことができる。


上品なトロの脂と樽熟シャルドネ

 トロは鮪の赤身と違って、鉄分の風味が少なくなり、ナッツやバターのような脂分の風味が強くなる。いうならば、フォアグラに鉄分の要素が加わったような感じ。そこでトロには、カリフォルニアの「ディアバーグヴィンヤードのシャルドネ」を。これは、コクのある白ワイン。樽熟成から来るナッツ系の味わいのシャルドネはトロに最適。このペアリングは霜降り肉にも合いそうだ。トロの脂の風味を生かすために、醤油を付けず、あえて塩でいただくのも良い。舌の上でとろけるトロの上品な脂身は、醤油よりも塩の方が口の中に広がる風味を感じられるだろう。

鮨の王様には高貴なネッビオーロを

 本鮪は日本人に馴染みのあるネタ。鮪の赤身はヘモグロビンやミオグロビンといったタンパク質から成り立っている。これらは、鉄分を多く含んでおり、後味は牛の赤身肉に似た鉄っぽい風味、そして柔らかな酸味と旨味が感じられる。そして、わさびはハーブのように後味をフレッシュにする。鮪の赤身は濃い口醤油に合わせやすいネタとも言えるだろう。
 そこで、北イタリア・ピエモンテ州の赤土土壌で造られた「ニコレッロ」のランゲ・ネッビオーロを合わせる。タンニンを含む高貴な味が本鮪の赤身に合う。熟成したワインは醤油に合うので、2006 年のヴィンテージを。アロマ(果実香)がブーケ(熟成香)に変わる古酒は、醤油の醸造香とも相性がいい。

和食のジャンルを超える味わい

 海老の淡白な味には、すっきりした酸が心地よいオーストリアのグリューナーヴェルトリーナーを合わせたい。これは、ワイナリーの敷地内にべートーヴェンが第九を作曲した家がある、「ヴァイングートマイヤー第九ラベル」の白ワイン。繊細な優しい味の海老の鮨は、醤油ではなく、趣向を変えた食べ方を提案しよう。ワインを煎り酒のようにして食べるのだ。器に塩を入れ白ワインを少々。これを付けて海老の鮨を味わうと、これまでの鮨のイメージが変わるだろう。もちろん、白ワインをのみながら。

蟹と海老、似ているようで違う

 海老は塩をかけて食べるが、蟹は塩をかける必要がないと言われる。それは、蟹の身が海水の塩分を吸っているからだ。そこで、海老にはライトな味の白ワイン、蟹なら赤ワインの方程式が生まれる。蟹に合わせるワインは、ほのかに塩味を感じる赤ワインに。ポルトガルのペニンシュラ・デ・セトゥーバルの黒ブドウ品種を使った赤ワイン「コップ」はどうだろう。海の近くで栽培された黒ブドウで造られたワインは、ミネラルが感じられる。実は、白ワインを合わせても悪くない。蟹酢で食べることをイメージすると、酸味と甘みのある白ワインが合うのも頷けるだろう。

北寄貝とワインのミネラルが融け合う

 青森県三沢市の北寄貝は、冬が旬。北寄貝は海の底の砂や土の香りを含んだ独特なヨード香があるので、辛口の白ワインを合わせたい。三沢の海のイメージに合わせるなら、ミネラルを感じさせるフランスのシャトーレオールのソービニオンブランとセミオンのワイン、グラーヴはどうだろう。北寄貝のヨード香にも相性が良いペアリングだ。肉厚の北寄貝の食感と旨味を引き立てる白ワインとのペアリングは、日本酒の吟醸酒にも引けを取らない旨さだろう。

ガリの華麗なる変身

 海外旅行に行くことができない状況が続いている。そこで、日本国内にいても世界を旅する気分が味わえたらと、それぞれの鮨に合わせたワインは、世界中のものをセレクトした。
 鮨は今、世界中で人気がある。ならばワインを味わいながら鮨を食べる人も多いだろう。
 生姜のドリンク、ジンジャーエールから着想を得て、ガリとスパークリングワインを混ぜて試しに飲んでみた。これがバランスよく仕上がった。


ワインバー アッカトーネ オーナーソムリエ・松田宰
すし提供/田清魚店 肴町店