本読み人の台所。

読書をしているうち、
引き込まれていく本の中の世界。
本に描かれている料理を実際に味わってみたら
さらに、作品の世界を身近に感じられるだろう。
本読み人が選んだ本と、料理を
どうぞ召し上がれ。

本読み人
栗澤 順一

岩手県盛岡市在住。さわや書店の書店員、外商部兼商品管理部の部長。まちづくりに参画しながら「地方消滅(中央公論社)」「地方消滅の罠(ちくま新書)」を累計1500冊売り上げる。自らを「1週間で八日飲む男」と称するほどのお酒好き。

狂詩曲的(ラプソディック)
担担麺

『窓の外を見てください』

片岡義男著・講談社

 何気なく張り巡らされた伏線が、ラストに向けて集約されていく様を楽しむのが、小説を読む醍醐味のひとつだ。が、中には伏線なのかどうか分からないまま読み終え、著者の意図を推理する楽しみが残る場合もある。私にとって本書はまさに後者だった。
 主人公は、デビュー作でいきなり新人賞を受賞した青年作家の日高祐介。第二作目の執筆にあたり、ネタ探しのため、それぞれ郷里に帰っている三人の知人女性を訪ねることに。
 かくして取材旅行が始まったが、その間にも執筆のテーマになりそうな出会いが続き・・・。
 小説の中で作家が小説を書いたらどうなるか、が隠れたテーマである本書。果たして片岡義男が書いた物語なのか、日高祐介が書いた物語なのかがわからなくなってしまい、伏線の回収どころではなくなってしまう。
なかでも第一章を堪能して欲しい。
 日高は偶然知り合ったマリと、買い物ついでに四川料理の店にやってくる。
「すべてを食べてから、担担麺をひとつ注文し、分け合ってふたりで食べた。」
 一冊を通し「担担麺」はこの一文にしか登場しない。しかも「どの料理の出来ばえにもマリは満足し、日高もおなじ意見だった。」と続けて書かれているが坦々麺そのものの詳しい記述はない。
 またこの坦々麺を「分け合って食べた」がふたりの関係はその後も知人のままだ。かくして、大した活躍をしていない坦々麺だが、この章のタイトルは「ラプソディック坦々麺」。見事に中心に鎮座しているではないか。
 おそらく、味噌や塩ラーメンではなく、坦々麺でしか込められないメッセージがあるのだろう。著者の片岡義男さんにその意図を聞くのはまず叶わない。
 かくして思いを馳せながら、私は今日も坦々麺を食べるのだった。

(文/栗澤純一)

「何か麺があるといいわ」
「メニューにいくつかあるよ。見つけよう。四川料理の店。ここから歩いて五分」
「そこへいきましょう。小説のことを考えてるのかと思ったのよ」
「そうだそれも考えなくては行けない」
 ふたりはやがてカフェを出た。エスカレーターで二階へ降り、百貨店の建物を出た。人がたくさん歩いている回廊を、彼らも歩いた。明らかに日が長くなっていた。
 四川料理店の前で日高はカフェで列挙したものを注文した。なんの異存もない、とマリが言ったからだ。すべてを食べてから、担担麺をひとつ注文し、分け合ってふたりで食べた。どの料理の出来栄えにもマリは満足し、日高も同じ意見だった。
 三階の店から階段を降りると、夜のいちばん始めの部分がそこにあった。

「窓の外を見てください」
-ラプソディック坦々麺-より

狂想曲的坦々麺(一人前)

  • [肉そぼろ]〈作りやすい分量〉
  • ●豚ひき肉・・・200g
  • ●ニンニク、ショウガ・・・各一欠片
  • ●冷やし坦々万能タレ・・・ティースプーン約1杯
  • ●酒・・・大さじ1〜2
  • [スープ]〈一人前〉
  • ●冷やし万能坦々タレ・・・大さじ1
  • ●白練りゴマ・・・大さじ1
  • ●豆乳(調整)・・・100ml
  • ●水・・・100ml
  • ●中華麺・・・1玉
  • ●チンゲン菜または小松菜(茹でておく)・・・少量
  • ●長ネギ(白髪葱にする)・・・少量
  • ●糸唐辛子・・・少量
  • ●ラー油・・・少量

作り方

  • ①肉そぼろを作る。豚ひき肉に酒を振りかけ、塩・胡椒をして軽く揉み込む。
  • ②フライパンにごま油を敷き、ニンニクとショウガを入れ香りが立つまで炒める。①を入れ、火にかけてほぐしながら炒める。肉の色が変わったら万能タレを入れ、水分が無くなるくらい迄煮詰める。
    ※多めに作っておくと、作り置きの一品に。
  • ③スープを作る。万能タレと白練りごまをボウルに取り、混ぜ合わせておく(この辺りで麺を茹で始めておく)
  • ④豆乳と水を合わせて鍋に入れ、沸騰させないように弱火でゆっくりと温め、③と合わせる。
  • ⑤茹でた中華麺を丼に入れ、スープを掛け、肉そぼろ、白髪葱、青菜、糸唐辛子などを乗せ、好みで辣油をかけてどうぞ。
    ※豆乳が入るので、コクがあり、辛みも抑えめ。辛味がお好きな方は万能タレの量を増やしてもいい。

料理人

橋本 玲奈

大阪生まれ神戸育ち。イタリア料理を中心に、レストランなどに約10年勤めた後、東北の自然と食材に魅了され、2011年より移住。旬の果物を使った瓶詰「四季のひとさじ」や四季折々の食卓提案など、食の分野で幅広く活躍中。