「神秘のドラゴンブルーに誘われて」番外編
「うれいら通り商店街」てくてく散歩
岩手県盛岡市の隣町・岩泉町。
本州一広い町は町の大部分を森林で占める、森と水のまちには
昭和の風情を残す商店街があり、近年、注目を集めている。
だから、龍泉洞を見学したあとは、「うれいら通り商店街」へ。
ちょっと気になる店が並び、あっちへこっちへと惹かれるようにまち歩き。
「うれいら」の不思議な響きに惹かれて
岩手県岩泉町の中心部である岩泉地区。ここには、町のシンボル的存在の宇霊羅山がある。
「宇霊羅」と書いて「うれいら」と読む。どことなく異国っぽい響きは、アイヌ語で「霧のかかる峰」という意味だ。石灰岩の断崖がそそり立ち、懐には日本三大鍾乳洞のひとつ「龍泉洞」を抱え込んでいる。
そのお膝元にあるのが、「うれいら通り商店街」である。
ノスタルジックなうれいら通り商店街を歩き始めて、気がついたのがあちこちに点在するチェーンソーアートだ。路地から通りに出た「岩手銀行」の角には愛らしいウサギがいるし、その向かいのカフェ「カンティーナ」前にも羽を広げたフクロウがいる。
-
岩手銀行前のウサギ。
-
カンティーナ前のフクロウ。
そして、チェーンソーアートのラスボス的雰囲気を漂わせているのが、「初恋水・百恋水」の守り神「岩龍泉龍」だ。
説明板によると、岩龍泉龍はチェーンソーアート・西間健氏が、樹齢300年以上のサワラの木1本から彫り出した作品。平成24年(辰年)8月9日(辰日)、午前8時(辰刻)に設置されたとか。
ちなみに、初恋水・百恋水は、「初恋から百歳の恋まで叶うように」という願いを込められた親水空間で、龍泉洞と共に「恋人の聖地」として認定されている。
親子のパンダに誘われて
通りに点在するチェーンソーアートの中でも、唯一ペイントされているのが「横屋手しごとや」のパンダ。初めて見たときは、「えっ! 君は誰?」と、足を止めてしゃがみ込み、話しかけてしまいそうになった。それだけ、印象が強い作品である。
しかし、パンダにしてはスレンダーだ。耳も大きい。私たちがよく知る丸っこくてかわいらしいパンダとはちょっと違うが、パンダらしい。下げた札に「私は岩泉(安家)生まれのパンダです」と書かれている。さらに「この店は岩泉付近の手作りのものを販売してます」と。
親子パンダに導かれるように店内に入ると、町家のように店空間が奥まで長く続いている。天井から下がる箒やかご、棚には陶器や雑貨が並んでいた。
-
日常使いの箒やざるなどに混じって、
かわいらしいバードコールも。
午後の日差しを受けて並ぶカップの数々を見ていると、店主の工藤リセさんが「岩泉には陶芸作家がふたり、村木茂さんと分田眞さんがいるんです」と教えてくれた。村木さんは、町にかつてあった炭鉱の粘土を使って作品を、分田さんは登り窯で作品を作っているという。
- ■横屋手しごとや
- 岩泉町岩泉字村木74 TEL 0194-22-3233
- 営業時間/9:00〜18:00 定休日/月曜
品揃えが豊富なまちのパン屋さん
横屋手しごとやの一角にあるのが、「ウレイラオーブン」。岩泉町では珍しいハード系のパンも出すパン屋である。小さなショーケースには、食パンやフランスパン、惣菜パン、デザートパンなど、約30種類のパンが並び、しかも、朝と夕方では品揃えが変わるという。
イートインスペースもあり、購入したパンやハンドドリップのコーヒーを味わうことができる。
-
ガラス越しに厨房も見え、焼き上がり時間になると
横屋手しごとやのほうまで、焼き立ての香ばしい匂いが漂ってくる。
コーヒー(280円)はハンドドリップで淹れる。
- ■ウレイラオーブン
- 岩泉町岩泉字村木74 TEL 0194-32-3496
- 営業時間/11:00〜19:00 定休日/日・月曜
岩泉の魅力をお持ち帰り
うれいら通り商店街には、1854年(安政元)から続く造り酒屋がある。
訪ねたときは仕込みの期間だったためか、店の引き戸を開けると麹の香りで満ちていた。
泉金酒造の仕込み水は、日本名水百選のひとつ龍泉洞の地底湖から湧出した水だ。人気の商品は「龍泉 八重桜 純米大吟醸」。岩手県産吟ぎんがを使い、フルーティな香りと米のコクが出ている酒である。これからの季節、花見の席の酒として好まれるという。
-
「龍泉 八重桜 結の香(720ml・3,350円・税別)」と
「龍泉 八重桜 純米大吟醸(720ml・2,500円・税別)」。
「龍泉 八重桜 結の香」は、フランス人によるフランス人のためのフランスの地で行う日本酒コンクール「Kura Master」で2018年金賞を受賞。すっきりとした味わいのなかにふくよかな米の味が感じられるという。
龍泉洞の仕込み水、老舗酒蔵と岩泉の歴史が感じられる酒は、おみやげとしても最適だ。
- ■泉金酒造
- 岩泉町岩泉字太田30
- TEL 0194-22-3211
- 営業時間/8:30〜18:30
- 定休日/日曜、祝日、1月1日~ 3日
- ※蔵見学/要予約
老舗の和菓子店でくじ引き
創業1832年(天保3)という「志たあめや」。天保といえば、11代将軍徳川家斉の時代である。水野忠邦による天保の改革が行われたころである。
創業当時は飴屋として始まり、時代とともに扱う商品が増え、今は江戸の頃からの駄菓子に加え、和洋菓子とパン、お店のグッズをつくっている。
おすすめは、渦巻きの形をした「かりんとう」。薄くてサクッとした食感で、黒砂糖の風味もよい。食べ出したら、とまらなくなるおいしさだ。
-
「かりんとう」は大が480円、小が300円(以上税込)。
JALのファーストクラスの機内食に選定されたこともある。 -
「かりんとうは明治に入ってから作り始めたようです」と話す橋本充司さん。
-
「おみくじクッキー」は1回150円(税込)。
「大吉を!」と願って紐を引いたら中吉。
- ■志たあめや
- 岩泉町岩泉字下宿25
- TEL 0194-22-2226
- 営業時間/8:00〜19:00
- 定休日/不定休
栗のおいしさを再認識!
うれいら通り商店街でもう1軒訪ねたいのが「栗菓子処 中松屋」。冬限定の「栗しぼり」、夏限定「水まんじゅう」で有名な和菓子店である。
中松屋が栗菓子に力を入れ始めたのは2代目のとき。栗の持つ独特のおいしさに惚れ込み、その甘みを損なわず、引き立たせる菓子をつくるにはどうすればよいのかと試行錯誤を重ねたという。
通年味わえる栗菓子として、人気が高いのが「栗おはぎ」。もち米をたっぷりの栗あんで包んだもので、餡には栗と砂糖しか使っていないという逸品だ。また、「饗(あえ)の山」は栗あんの繊細な甘味を、羊羹の優しい甘味で包み込んだもので、満足のいくおもてなし菓子である。
-
「栗おはぎは、「手土産にもおすすめです」と佐藤大さん。
2個入500円・5個入1,250円(以上税込)。 -
「饗の山」は2,950円(税込)。
栗のおいしさを堪能するためには、8ミリ幅に切るのがよいとか。
「はっこいブッセ(2個入500円・税込)」。
岩泉産食用ほおずきのピューレを混ぜたクリームチーズが
爽やかで、まるで初恋のよう。
- ■栗菓子処 中松屋
- 岩泉町岩泉字下宿37
- TEL 0194-22-3225
- 営業時間/8:00〜19:00
- 定休日/無休
通りを歩いていると、ほかにも気になる店や建物がある。半日では歩ききれない魅力が感じられた。季節を変えて、次は桜の季節や宇霊羅山が新緑に覆われる季節がいいかもしれない。