こんにちは。
薬剤師の目線でいますぐ誰かに話したくなる「薬の豆知識」をお届けしております。

前回(vol. 16)は、薬に対するコーヒーの影響についてお話させていただきました。
今回は、前回に引き続き、薬に影響を与える「タバコ」の話です。
早速、ある事例をご紹介いたします。

長年、喫煙習慣がある男性がいました。
ある時から頻繁にせき込むようになり、呼吸が苦しくなることが多くなってきたということです。
病院を受診したところ喘息であると診断されました。(喘息は子供の病気と思われがちですが、大人になってから発症することもあります)
この男性患者さんには「テオフィリン」という成分のお薬が処方され、薬物治療を開始することになりました。

しばらくしてから、家族や友人から喘息ならタバコを辞めた方がいいのでは?と提案され、ご自身でも禁煙する良いきっかけになると思い、禁煙にチャレンジしてみることにしたそうです。
タバコを吸わないことに思ったほど苦痛を感じず、息苦しさも減ってきて、タバコを辞めて良かったな、と思っていました。

そんな矢先、めまいや手の震えを感じ、少し動悸がするようになりました。
タバコも辞めたし、喘息の調子も良いのに何が起こったのか、患者さんにはさっぱり意味が分かりません。
実は、この患者さん、テオフィリン中毒を発症してしまっていたのです。

テオフィリン中毒とは血中のテオフィリン濃度が高くなってしまうために起こる症状です。
用法用量を守って薬を飲んでいたのに、なぜテオフィリン中毒になってしまったのでしょうか。
その原因が良かれと思ってはじめた「禁煙」だったのです。

この患者さんは薬物治療を開始する際、医師に喫煙習慣があることを話していました。
テオフィリンは喫煙により代謝されやすくなる(効果が弱くなる)薬のため、医師は喫煙を考慮して薬物量を少し多めに設定して処方しました。
その後しばらくしてから患者さんは禁煙にチャレンジしたのですが、医師にはそのことを話していなかったのです。
禁煙していることを知らない医師は、喫煙時と同量の薬を処方し続けていました。
禁煙をした患者さんの体の中では服用したテオフィリンが以前ほど代謝されなくなったため、たくさんのテオフィリンが血中に残り中毒症状である手の震えや動悸がでてしまったという訳です。

タバコを吸うことは体に良い影響を与えないと多くの方が知っています。
そのため、薬物治療をしている患者さんの中には体調が悪くなったことをきっかけに禁煙にチャレンジされる方がいらっしゃいます。
禁煙することで良いことがあっても、薬の働きを変えてしまうなんて想像もしないですよね。

似たような例として、vol.1で紹介した「納豆」があります。
納豆は健康に良いとテレビ番組などでも紹介されていることがありますが、血液をサラサラにする効果があるワルファリンカリウムという薬との併用はNGです。
薬剤師はワルファリンカリウムを服用している患者さんに納豆を食べないでくださいね、とお話をしますが長期で服用されていると忘れてしまうことがあります。

実際にこんな事例がありました。
納豆を食べているために薬の効果があまり認められなかった患者さんがいたのですが、医師は「薬の効きが悪いなぁ。量を少し増やそうかな。」と処方変更をしました。
薬を貰うために薬局に行ったところ、いつもと違う新人の薬剤師が対応してくれ、「納豆は食べないでくださいね」と説明されました。
すると患者さんは、「あれ?俺は納豆を毎日たべているぞ」と。
喫煙の事例と同様、医師が知ることなく納豆によって効果が弱まっていただけだったのです。
もし、薬の量を増やしたこのタイミングで納豆を食べる習慣をやめていたら・・・一気に血中のワルファリンカリウム濃度が上昇し、血が止まらなくなってしまったかもしれません。
この時は、薬剤師が医師に患者さんが納豆を食べていることを伝え、薬の量を元の量に戻したために大事に至らず、体調の悪化を防ぐことができました。

このように、何かが何かに影響を与えることを「相互作用」と言います。
薬物治療においては、関係がないと思っても嗜好品や習慣的に食べているもの・サプリメントなどを申告していただくこと、そして生活習慣を変える場合にはその都度お話していただくことが大切です。

適切な薬物治療は患者さんと医療従事者、相互のコミュニケーションにより成立します。
いろいろなことをお話いただけると嬉しいです。

杉山育美
岩手医科大学薬学部 准教授 博士(薬学)
薬剤師
スポーツファーマシスト
アスリートフードマイスター
薬剤師を身近に感じてもらいたいとSNSなどを通して発信中。
アスリートやサポートスタッフ、ご家族に対してアンチ・ドーピング活動をすると共に勝利のためには健康であることの重要性もお伝えしている。
近年はアスリートを含む女性の健康サポートにも力を入れている。