このゴールデンウィークから八戸市美術館にて
ゲストキュレーターに森司さんを迎えて「美しいH U G!」が開催される。
展覧会とプロジェクト、アーティストと八戸、美術館と地域など
さまざまものがHUG しあう、興味深い企画となっている。

鑑賞して参加する展覧会&プロジェクト

 開館から2年目を迎える「八戸市美術館」。同館は「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトとし、アートに触れる「展覧会」と、アートを通じた出会いや学びを体験する「プロジェクト」の2本立てで企画を展開している。
 今回の展覧会は「美しいHUG(ハグ)!」。ゲストキュレーターにアーツカウンシル東京で多くのプロジェクトを統括する森司さんを迎え、同館の巨大空間「ジャイアントルーム」と展示室「ホワイトキューブ」、展覧会とプロジェクト、アーティストと八戸など、さまざまなものをつなげたHUGを創り出した。
 参加アーティストは6名。広場に点在するのは、黒川岳さんの作品《石を聴く》。ジャイアントルームには青木野枝さんの鉄の彫刻が置かれ、井川丹さんの音楽作品が響く。その先のホワイトキューブには、川俣正さんの作品と日々変化するタノタイガさんの《タノニマス》を展示。そして、美術館と路上をつなぐのが、きむらとしろうじんじんさんのプロジェクトだ。作品やプロジェクトに能動的に参加・鑑賞することによってさまざまなHUGを楽しむ企画となっている。

青木野枝

aoki noe

 鉄を用いた大型彫刻と空間表現が特徴の彫刻家・青木野枝さん。今回は、八戸市美術館の入口と直結している「ジャイアントルーム」の巨大な空間を活かした作品を展示する。作品制作にあたり、南部煎餅を使ってみたいという提案もあり、八戸市の「元沢せんべい店」や南部町の「竹林せんべい店」をリサーチ。八戸の郷土食とHUG した彫刻がどんな作品になるのか楽しみである。

青木野枝 美しいHUG!のためのドローイング、2023年
青木野枝《霧と山》2019年、鹿児島県霧島アートの森での展示の様子。
撮影:山本糾 courtesy:ANOMALY
作品づくりのリサーチで「竹林せんべい店」を訪問。

井川丹

ikawa akashi

 期間中、「ジャイアントルーム」に音楽家・井川丹さんが「美しいHUG!」のために創作した曲が流れ、空間と音楽作品がHUGする。題材となったのは1975年から1976年にかけて八戸市立湊中学校で共同制作された版画「虹の上をとぶ船 総集編?・?」。子どもたちが歌う合唱パートとプロ歌手が歌うアンサンブルのパートで構成され、9時間にもわたる大作だ。市内の小・中・高校5 校も参加、録音するなど八戸らしい音楽作品となっている。

川俣正《Under the Water》井川丹《あわいの声−「虹の上をとぶ船 総集編?・?」との対話−》の楽譜。
昨年9月、声の録音を版画「虹の上をとぶ船」の前で行った。この版画作品は八戸市美術館に所蔵されている。

川俣正

kawamata tadashi

 展示室「ホワイトキューブ」とH U G するのは、美術家の川俣正さんの作品。公共空間に木材を張り巡らせた大規模な作品が多く、制作プロセスを含めて作品となっている。今回は家屋廃材がまるで海を漂うように天井を覆う大規模インスタレーション《Underthe Water》を構想。使用する素材は、八戸市内から集めた木製の建具や家具。「ジャイアントルーム」の青木野枝さんの「鉄」から川俣さんの「木」へという素材の違いが見せるHUGも堪能したい。

川俣正《Under the Water》2016年、ポンピドゥ・センター・メス
川俣正《Nest in Sydney》2018年、シドニー(オーストラリア)での展示の様子

きむらとしろうじんじん

kimura toshiro jinjin

 陶芸家・美術家のきむらとしろうじんじんさんと一緒に野点をする参加型プロジェクト。参加者は自分で絵付けをした茶碗でお茶をいただくことができる。野点の場所は、事前に一緒に運営するプロジェクトメンバーで候補地を出し合い、実際に場所を確認する散歩会も行う。散歩の最中に今まで気が付かなかった八戸のいいところを発見することも。野点本番では、ドレスアップしたじんじんさんが登場。今年は10 月に野点を開催、5〜7 月の説明会やお散歩会にも気軽に参加してみて。

昨年開催された「八戸野点2022 in 美術館マエニワ」。©Yuji Hachiya
  • 陶芸家・きむらとしろうじんじんさん。©梅田彩華
  • 「野点」では、自分で絵付した茶碗でお茶を味わえる。©Yuji Hachiya

黒川 岳

kurokawa gaku

 八戸市美術館の広場に配置された10点の六甲山産の自然石。黒川岳さんの《石を聴く》は、石に開けられた穴に頭を入れ、音を聴くという作品である。その姿はまるで石とHUGをしているようなもの。黒川さんによると、作品の置かれた場所、時間によって穴の中で響く音が変化するとか。広場に設置するとき、穴の中で反響する音を想像しながら設置。展覧会では八戸市産の石でつくられた新作1点が追加される。

  • 玄関前に設置された黒川岳《石を聴く》2018/2023。©YOSUKE SUZUKI
この作品を鑑賞する姿がユニークとSNSなどで話題になっている。美術館の警備員さんが、この姿をモチーフにドールをつくったそう。

タノタイガ

tanotaiga

 美術家・タノタイガさんの作品《タノニマス》は、作家の顔をモチーフにしたお面に来場者が彩色などのデコレーションを施すことで完成する参加型作品。展覧会のスタート時には「ホワイトキューブ」の壁一面に無表情で画一的なお面が並んでいるが、会期が進むにつれさまざまなお面が並んでいくという、多様性や過程も楽しめるものだ。作品を支えるチーム「タノミマス」も結成され、市民も参加し活動をしている。

タノタイガ《タノニマス》2007年、東京都現代美術館での展示風景(2019年)。©白井晴幸
タノタイガ《タノニマス》のお面。