本屋&本と過ごす時間

 盛岡駅から開運橋を渡り、少し歩くと「ポノブックス&タイム」がある。古いビルの階段を登り、思い切ってドアを開けると、まるで雑貨屋さんのようにたくさんの本が並んでいた。懐かしい絵本や写真集もある。「新刊はあまり多くなくて、古書がほとんどです。私の個人的な趣味の本も。本が集まってくるんです」そう話す店主の小山由香理さん。手に取った本から話が膨らみ、つい長居してしまう。ソファ席とカウンター席は1時間から利用できる。ここでは本(book)と時間(time)、どちらも価値があると気づかせてくれる。

  • ソファ席、ワークスペースは1時間600円から利用できる。コーヒーなどドリンク類は300円。Wi-Fi完備なので読書の他に仕事もできる。
  • Pono books & time
  • 岩手県盛岡市大通3-7-9東北堂ビル2F
  • TEL/019-601-7253
  • 営業時間/火〜金曜10:00〜18:00、土曜13:00〜17:00
  • 定休日/日・月曜

啄木も賢治も暮らしたまち

 大通り商店街には盛岡の名物本屋「さわや書店」がある。学生、スーツを着た社会人、お年寄り……、あらゆる年代の人が本屋の中に吸い込まれ、また、店から出てゆく。まるで呼吸するように。本屋という存在が街に息づいているのがわかる。
 盛岡城跡公園には、至る所にベンチがあった。腰掛けて本を読むのにちょうど良い。せっかくなら見晴らしの良い席に座ろう。石川啄木が「不来方のお城の草に寝ころびて空に吸はれし十五の心」と詠んだ盛岡城跡。そういえば、啄木、そして宮沢賢治も通った盛岡中学はこの近くにあった。授業を抜け出し、この空を見ていただろうか。
 もりおか啄木・賢治青春館に併設された「喫茶あこがれ」は、石川啄木の処女詩集「あこがれ」にちなんで名付けられた喫茶コーナーだ。国の重要文化財である古い西洋建築の中でくつろぐことができる。天井のレリーフなどは明治43年(1910)の建築当時のまま。コーヒーを飲みながら、啄木と賢治が過ごした時代の盛岡に想いを馳せた。

  • さわや書店本店
    盛岡市大通2-2-15
    TEL / 019-653-4411
    営業時間/ 9:30 〜 19:00 定休日/無休
  • 盛岡城跡公園の三の丸跡のベンチに腰かけて読書を。近くには石川啄木の歌碑「不来方のお城の草に寝転びて空に吸はれし十五の心」がある。
  • 盛岡駄菓子はあん菱(左)、豆銀糖(奥)、ぶどうゼリー(手前)
  • もりおか啄木・賢治青春館の中にある「喫茶あこがれ」。盛岡駄菓子「もりおかの味くらべ(250円)」。「青春館ブレンドあこがれ(450円)」は、南部鉄瓶で沸かした湯でドリップする。併設されたミュージアムショップには啄木や賢治の本が。
  • 喫茶あこがれ
  • 岩手県盛岡市中ノ橋通1-1-25
  • TEL / 019-604-8900
  • 営業時間/ 10:00〜17:00
  • 定休日/第2火曜

中津川沿いを歩く

 盛岡の中心地を流れる中津川。中の橋の袂の河川敷には椅子とテーブルが置いてあった。散歩する人、腰掛けて休憩する人、本を読む人。水辺も本を読むのにふさわしい。
 中津川沿いの「ひめくり」は、漆器や鉄器、やきもの、木工などのクラフトや、現代作家のポストカードを扱う雑貨店。毎日使い続けたくなる品々は、実際に手に取ってみるとさらに良さが伝わってくる。インターネットでの買い物では得られない愉しさがここにはある。厳選されたラインナップの中には本も並んでいた。盛岡のリトルプレス「てくり」や民芸の本など、この店ならではの本と出合いがある。

「ひめくり」は岩手や東北にゆかりのある作家や、店主の菊池美帆さんがセレクトしたクラフトなどを扱っている。何度行っても感性を刺激する出合いがある。
  • 素敵な本との出合いが
  • shop + space ひめくり
  • 岩手県盛岡市紺屋町4-8
  • TEL/019-681-7475
  • 営業時間/10:30〜18:30
  • 定休日/毎週木曜、第1・3水曜
中ノ橋の近くの水辺にはテーブルや椅子が置かれている。晴れた日には、どこからともなく人が集まってくる。
「漸進社」は自家焙煎コーヒーの店。店主の鈴木哲基さんが作るプリンやホットサンドなどもお勧め。カフェオレ(700円)は、ボウルで供される。両手でいただくと指先までじんわり温まる。本を読みながらとっておきの時間を過ごしたい。
  • 漸進社
  • 岩手県盛岡市紺屋町2-20
  • TEL /090-9842-0739
  • 営業時間/ 12:00〜23:30
  • 定休日/不定休

リノベーションした商業ビルへ

 中の橋を渡り河南地区を歩く。行き先は、築70年以上の建物をリノベーションした「松栄館」の2階にある「書肆(しょし)みず盛(も)り」。建築士の主人山下桂樹さんが開いた本屋だ。かつては、よその店で本屋を開いていたという山下さん。本が好きなのはもちろん、本を通じていろいろな人とコミュニケーションを図れるのが喜び、と語る。表紙を見せる「面陳列」の書棚は、本が語りかけてくるようだ。ギャラリーで作品を鑑賞するように本と向き合い、手に取ることができる。ペラペラとページをめくっていると、山下さんがその本にまつわる話をしてくれた。こうして、店主と語らいながら本を選ぶのもおもしろい。一冊購入し、大事に抱えて店を出た。
 同じビルの1階には「いなだ珈琲舎」がある。本を読みたい気持ちの赴くままに、店のドアを開けた。カウンターには綺麗な生花が飾られ、心が華やいだ。花のそばのカウンター席に腰掛け、メニュー表の中からコーヒーのブラジルを選んだ。ネクタイをしたマスターの稲田耕基さんが、流れるような所作でコーヒーを淹れる。加えて「しあわせチーズケーキ®」を注文した。濃厚で滑らかな口当たりのケーキがコーヒーによく合う。今日の締めくくりにふさわしい一杯だ。
 手にした本を見ると稲田さんが「みず盛りさんで買った本ですか」と、にこやかに微笑んだ。この店で読書をする人は多いのだとか。コーヒーを飲むと本を読みたくなり、本を読むとコーヒーを飲みたくなるもの。盛岡のまちに本が似合うのは、コーヒーがおいしい喫茶店が多いからなのかもしれない。

リノベーションしたビル松栄館の2階にある「書肆みず盛り」。建築士が設計した本屋は、本が展示するように置かれている。いろいろなジャンルの本があるので、どれも手に取ってみたくなる。4月26日から5月7日まで「ちいさなししおどり展」開催。
  • 書肆みず盛り
  • 岩手県盛岡市南大通1-12-18 松栄館2F
  • TEL / 019-677-8863
  • 営業時間/ 10:00〜19:00
  • 定休日/月・火曜
リノベーションを機に、隣のビルから移転した「いなだ珈琲舎」。「ストレートコーヒー」は700円。「しあわせチーズケーキ®」は550円。クラシック音楽が流れる店内でコーヒー片手に読書に耽りたい。
  • 自家焙煎 いなだ珈琲舎
  • 岩手県盛岡市南大通1-12-18 松栄館1F
  • TEL / 019-656-7766
  • 営業時間/ 7:30〜19:00
  • 定休日/月曜、第2・4火曜