2022年8月27日(土)の朝、IGR盛岡駅改札に集合。ツアーに同行するIGRさんが出迎えてくれた。
「IGRいわて銀河鉄道」に乗り込み、二戸駅で下車。バスに乗り換え、最初の訪問地「野田漁港」へ。バスを下りると、聞こえてくる波の音やウミネコの鳴く声、潮の香りに、海に着いたことを実感した。

一般的には波の穏やかな内湾で養殖するのに対して、野田村のホタテはプランクトンが豊富な外海で育てる。海水が淀まずにいつも流れているから、ホタテの旨味が引き立つそうだ。説明を聞いた後で、焼きたての荒海ホタテと、「のだ塩」をまぶした「のだ塩むすび」をいただく。今日のホタテは育て始めてから2年越えの、出荷するサイズとしては最大のもの。今朝、畜養から揚げたという鮮度抜群のホタテを、炭火で素焼きしたそれは、絶妙な塩味が付いていた。「きれいな野田の海の味」なのだろう。現地でしか食べられない、極上のごちそうに「めちゃくちゃ美味しい!」とツアー客から声があがる。

「いちばん美味しいミディアムレアの状態で、熱々のところを食べてもらいたい」と、ツアー客が到着するタイミングを計りながら、焼き加減を微調整。

軽食のあと、その場で、野田村の地形について話を聞く。野田漁港に突き出した、高さ約50メートルの断崖は「大唐の倉」と呼ばれ、上部に茶色の粒々が見える地層、その下に白い層、その下にまた茶色の層が見えている。白い層は火山灰が堆積した凝灰岩で、その高さから、この地域で何十万年という長い期間、火山活動があったことが分かるのだという。この崖はかつて海の底にあり、地球を覆うプレートの動きにより、海底だったところが押し上げられた。だから、野田漁港を挟んで遠くに見える丘の上は平らなのだと教えられる。海岸段丘があり、ほどほどの高さのところに平坦な地面があるという地形。春から夏にかけての冷たく湿った風「やませ」の影響による、冷涼な気候。そんな自然環境をいかして、野田村のワインはつくられている。

食べた後は運動の時間とばかりに、漁港近くの水門から展望休憩施設「ほたてんぼうだい」まで歩く。新しい防潮堤の上を進みながら、この場所の話を聞く。新しい防潮堤は、大きな津波を防ぎきるようには作られていない。大切なのは避難する時間を稼ぐこと。新しい防潮堤と古い堤防の間にスペースが設けてあり、場所によっては三陸鉄道や国道45号なども波の侵入を防ぐ砦となるそうだ。

新しい防潮堤の上を歩くと、野田の海が一望できる。陸側の少し離れた場所に、古い堤防が見えた。

防潮堤を進んだところで「このところの嵐の影響で、海岸にゴミが打ち上げられています。ゴミ拾いを手伝っていただいても、よろしいでしょうか?」と案内人の松田さんが呼びかける。「あー、なるほど」「すばらしい!」と、浜に降りてゴミを拾い始めるツアー客の皆さん。あまり熱心にゴミを拾うので、「ほどほどに、前に進んでくださーい!」とツアーガイドから声がかかるほど。

「いっぱい拾ってくれたので、後でワインいっぱい注ぎまーす!」と、松田さんが笑いを誘う。

十府が浦での散歩を終え、次の目的地は丘の上にある、山ぶどうの葡萄園。最初に案内してもらったのは、まだ若い圃場。ブドウには雌雄があり、縦にブドウの実がなる雌株を、横に受粉させるための雄株を植えている。酸っぱいと思われている山ぶどうだが、この圃場では収穫を通常より1-2週間遅らせて、ワイン造りに適した糖度18度まで上げてから収穫するので、その実は意外なほど甘いそうだ。

圃場では、野田村産山ぶどうワインのバリエーションを増やすため、野田村の気候で生育する白いぶどうを試験栽培していた。特に生育の良い品種を選び、畑に定植する予定だそう。この先、野田村産の「白ワイン」を飲める日が来るかもしれない。

植えたばかりの若い圃場は、木もツルも細い。
こちらの圃場は、若い圃場と比較すると葉の密度も幹の太さも段違い。 緑の葉が覆いかぶさるように茂っている。この時期は下草刈りや、実に日が当たるような剪定作業が欠かせないそうだ。

山ぶどうを生産する圃場を離れて、「涼海の丘ワイナリー」へ。今朝、野田漁港で「荒海ホタテ」を焼いていた坂下さん、実はソムリエであり、涼海の丘ワイナリーの醸造長だった。醸造室を見せてもらいながら、ワイナリーの説明を聞く。タンクをコタツで温めたり、水をかけて冷やしたりして温度管理をしてきたこと。樽に入れたワインは、旧鉱山坑道に貯蔵すること。今後はスパークリングワインやデザートワインなども作れるようにしていきたい、との展望を聞き、その熱意に打たれて応援したい気持ちでいっぱいに。坂下さんは、「手づくり感あふれるワインだということを想いながら、今夜のワインを楽しんでほしい」と醸造所の説明を締めくくった。

併設のテイスティングルームでは、奥のテラスから、海が見えた。いつもはヤマセで海が見えないというから、運がいい。まさに「涼海の丘」にあるワイナリーだ。

バスに乗り込み、最後の会場「えぼし荘」へ。海岸での赤いポロシャツ姿から一変、スーツに身を包んだソムリエ・松田さんの案内による「鮨とワインのペアリング研究会」の時間だ。イタリアのスパークリングワイン、スプマンテで乾杯。ワインにガリを加え、高級なジンジャーエールのように味を変えて楽しむ。1貫目「獲れたてヒラメ」には、オーストリアのワイン「グリューナー・ヴェルトリーナー」を。寿司は「のだ塩」にワインを加えた「ワイン塩」でいただく。

2貫目「久慈育ち琥珀サーモン」には、涼海の丘ワイナリー「紫雫 MarineRouge」のロゼを合わせて。濃口のわさび醤油を付けたサーモンに、ロゼの強さは相性がいい。坂下醸造長の「きょう歩いた、十府が浦の海、潮風を思い出しながら召し上がってください。フローラルな香りが、お料理に寄り添ってくれると思います」との説明に、会場から拍手が送られた。

3貫目「イクラの軍艦巻」は、涼海の丘ワイナリー「紫雫 MarineRouge」の赤といっしょに。「海が近い涼海の丘のワインには、出汁を感じる味わいがある」と松田さん。そのワインと、ねっとりとしたイクラの旨味を合わせて味わう。

4貫目「炙りマグロ」に合わせるのは、涼海の丘ワイナリー「紫雫 MarineRouge」樽熟成2018。5貫目の「アナゴ」には、甘いアイスワイン「エスターハージ― ベーレンアウスレーゼ」と合わせて、デザートのような感覚で。

食事の終盤には、研究会らしく「寿司とワインのペアリング」について振り返りの時間が設けられた。ツアー参加者の評価が高かったのは「久慈育ち琥珀サーモン」と涼海の丘のロゼ。「美味しかったねぇ」と振り返る。

このサーモンは、秋サケ、スルメイカなどの漁獲量が減少している状況において、安定した水揚げを確保するために始まった「つくり育てる漁業」によるもの。餌に山ぶどうの皮や種を混ぜているので、サーモンの色味、味わいの深さが出てくるのではないか……ということを感想を聞きながら確認しているところだそう。久慈市から担当課の方がわざわざ会場に駆けつけて、説明してくれた。「輸入ものよりちょっと高いかもしれないけど、地産地消として、地元のものを食べていただければ」と聞けば、今後スーパーで見かけた時の対応も違ってくる。産地や生産者を知ることは、豊かな選択をする第一歩になりそうだ。

景品付きのクイズもあり、楽しんだ宴もお開きの時間に。テーブルでは、今回の旅で知り合いになった方同士で「めっちゃ楽しかったですー。ありがとうございます」「また、ご参加くださいね」と声をかけあっていた。きっと満足いただける旅だったに違いない。

現地のエキスパートが、行く先々で次々と登場して説明してくれるこのツアーは、まるで大人の社会科見学のよう。きょう一日でたくさん、新しいことを知った。「いいところだったな。また来たいな」そんな想いを強くする。歩いて学んで、食べて飲んで。一日いっぱい野田村を満喫した帰りの車内は、とても静かだった。

*rakra誌面体験ツアーは、個人旅行では叶わない特別な体験を、ギュッと濃縮して味わえる着地型ツアー。行く先々で、地域の皆さんが準備を整え歓迎してくれるので、参加者は楽しむことだけに集中できる。次回はぜひ、いっしょに楽しみましょう。

Special Thanks
久慈市

国民宿舎 えぼし荘

涼海の丘ワイナリー

ワインショップ・アッカトーネ539 代表 松田宰さん

銀河鉄道観光