雪が深い鹿角の工房で作られる燻製屋「猫松」の商品たち。左から「燻り大根漬け(L)」700 円、「燻りチーズ(ブロック)」700 円、「燻りナッツ(レギュラーサイズ・キャラメル)」850 円。

雪深い鹿角の燻製職人スモーカー

燻製の魅力を伝えるため 徹底した良いものづくりを

「燻り大根漬け」の燻しの工程。燻煙が立ち込める燻製小屋。

燻製好きが高じて移住した鹿角で起業

 食材などを煙で燻す燻製品。燻すことで殺菌効果が生まれることから保存食として親しまれてきた。その、スモーキーな香りは、食材に風味を加え、味をより一層引き立てる。
 秋田の代表的な燻製食品「いぶりがっこ」は、大根を燻しながら乾燥させ、米ぬかに漬け込んだ漬物だ。秋田の冬は寒く雪が多いことに加え、日照不足であるため、天日干しに向かない。そこで、家の中に吊るし、囲炉裏の煙によって燻しながら干したことがいぶりがっこの始まりだと言われている。
 燻製屋「猫松」の主人・松村託磨さんは、7年前、地域おこし協力隊として秋田県鹿角市に着任した。趣味は燻製を作ること。秋田に来る前から自宅のベランダでベーコン、サーモン、たくあんなどを燻製にし、味わうことを楽しみにしていたという。
 「秋田に燻製があるから移住したわけではなく、自然があるところで暮らしたくなった。偶然、鹿角市で地域おこし協力隊を募集していることを知り、飛びつきました」と話す松村さん。着任してからも趣味で燻製づくりをしていた。  地域おこし協力隊の任期中から、お世話になったこの土地で起業したいという思いがあった松村さん。思えば燻製を始めて8年が経っていた。
 「チャレンジすることや変化を好むタイプ。自分が好きなことを仕事にできたら」と思い、燻製の製造販売で起業。保育園として使用していた建物を工房として借りることができた。
 「どちらかというと燻製は男性が好む傾向があると思います。だから、若い女性にも手にとってもらえるような燻製を作って、魅力を伝えたい」と、コーヒーに合う「燻りナッツ(キャラメル)」を商品化。地元のカフェで販売してもらった。起業してしばらくは、ナッツとチーズの燻製を主に製造。道の駅など、少しずつ販路を広げていった。

  • 燻煙に使う桜のチップ。ナッツとチーズの燻製は、試行錯誤の結果、桜のチップしか使用しないという。
  • 燻製器の中で燻され、仕上がったばかりの「燻りチーズ(サイコロ)」。
  • 燻煙が終わり、クールダウン中の「燻りナッツ」。
  • タイマーが鳴り燻製器の扉を開けると、冷えた室内に燻煙が立ち込める。

自分が「おいしい」と思うものしか作らない

鹿角の農業法人と共同製作をスタート

 実は松村さんは、起業する少し前から、伝統食いぶりがっこの魅力を、もっとアピールしたほうがいいと鹿角の人たちに伝えていた。しかし地元の人は、「いぶりがっこは横手のもの」と言い、取り合ってくれなかった。しかし、「燻し文化は、秋田県の独自の文化なのでは」という松村さんの主張は、ある一人の人を動かした。農業法人の代表が、燻り大根漬け(いぶりがっこ)用に大根を作ってくれたのだ。「『これで作ってみろ』と鹿角産の大根を持ってきてくれたときは、背中を押された気持ちでした。」と松村さん。
 早速、自宅の倉庫を使って大根を吊るし燻製小屋にした。一年目は500本、2年目は、燻製以外の工程を農業法人と一緒に行ったことで、4200本に増えた。猫松ブランドの商品名は「燻り大根漬け」。従来のいぶりがっこから製造方法を学び、現代の好みに合うように塩分を控え、パリッとした歯ごたえのある漬物になった。
 「スモークナッツもチーズも自分が食べて美味しいと思えるものを作っています。燻り大根も自分好みの味。これからも安易な商品は作らず、自分の道を歩いて行きたい」と話す松村さん。燻製作りに一切の妥協はない。
 雪深い鹿角の工房で作られる猫松ブランドの燻製。一口食べればその味の虜になるだろう。そのスモーキーな風味をぜひ味わって欲しい。

王道の一本漬けで伝統の味を堪能

秋田食産のいぶりがっこ

 奥羽山脈の麓にある仙北郡美郷町。町内には126カ所の湧水が確認されており、日本の名水百選にも選ばれた水の豊かな町だ。
 冬は豪雪地帯でもある美郷町。いぶりがっこは厳しい寒さの中作られる。使用するのは、できるだけ農薬を使わない低農薬・有機肥料で育てられた大根。燻製小屋に吊るし、3昼夜燻したのち、ぬか床に漬け込む。
 一本一本丁寧に作られたいぶりがっこ。王道の一本漬けと、スライスで販売中。スモーキーで深い味わいの正統派の味をどうぞ。

  • 王道の一本漬けのほか、食べやすくスライスしたものも
  • 一本一本、米ぬかと大根のヒゲ根を取り除く。
  • 丁寧に袋詰め作業する。
  • 無着色・無添加のため、切り口は自然の色。