心地よい家づくりのために 知っておきたいこと

高断熱住宅の必要性がいわれ始めて約40年。
家の性能は格段と向上し、いまも進化している。
当時から高断熱・高気密住宅のトップランナーである
西方設計の西方里見さんに、北東北の家づくりについて聞いた。

西方設計のアトリエは片流れの芝置屋根(1993年設計)。芝の緑と板張りの外壁が周囲の自然と調和している。

自然素材を使った健康的な家づくり

 この1〜2年でテレワークの普及により仕事の仕方が変わったり、自宅での過ごす時間が増えたりし、住まいに対する考え方が変わってきた。自分にあった家の建築やリノベーションを行うとき、多くのことを検討し決定しなくてはならない。その時に頼りになるのが、地域を知る設計士や工務店である。
 秋田県能代市にアトリエを構える「西方設計」の代表取締役・西方里見さんは、高断熱・高気密のエコ住宅が注目される前からこの分野の設計に携わってきた。
 西方設計のアトリエは、事務所から独立して10年以上経った1993年に建てられた。片流れの芝置屋根とシルバーグレーの秋田杉の外壁材が印象的である。
 「10年以上の実績があるとはいえ、地方の小さな設計事務所です。1200万円という限られた予算の中で、当時、考えうるエコ住宅のアイデアを採用しました」と話す。アイデアの中には、当時の北東北では最高スペックの高断熱・高気密性能、秋田杉の外壁、パイン材の内装、FF式石油ストーブによる床下暖房、屋根緑化も含まれていた。さらに地熱や地下水、雨水利用も実行した。
 「ほとんど間仕切りのないシンプルなプランとし、片流れの大屋根にしました。断熱材にはグラスウールを使い、窓はペアガラスを標準とし、西日が強いところはブラインドを内蔵したトリプルガラスを入れるなど、断熱性能を強化しました」
 それから28年間、西方さんはここで仕事をしているが、冬はオープンな床下空間に設置したFF式石油ストーブ1台で全館を21〜22度に保ち、いつも快適だという。夏は南向きの大窓の下に朝顔を植えてグリーンカーテンにしていたが、日射を最も遮蔽したい7〜8月は蔓がまだ低いため、後から外付けブラインドを設置した。
 「夏もエアコン1台で全室冷房しています」
 1年を通して、一定の室温が保たれているため快適だ。その心地よさは室内の観葉植物も同じようで、西方さんは「外は吹雪でも、室内ではポトスや椰子の木が青々としています」と笑う。

  • 大正時代に建築された家を高性能断熱・耐震改修。西方さんは大きな広縁など日本家屋のよさを残し、外壁を重点的に改修した。
  • 西方さんが設計した家。吹き抜けの大窓をつけて明るく。
    日射は耐久性のある外付けブラインドでコントロールする。

環境と人に優しい高性能住宅

 西方さんの高気密・高断熱住宅に対する考え方は、今も継承され、実践する設計士や工務店も多い。
 西方さんは、「高断熱・高気密住宅は、人と環境に負荷の少ない家をつくることにつながる」と言う。断熱・気密性能を高くし、太陽や風など自然エネルギーを使うことで冷暖房費が抑えられ、省エネにつながる。また、外壁材に秋田杉などの県産材を使うと、流通コストを抑えられるほか、山を育て、里の治水を守ることにもなる。さらに、構造の耐震強度を上げ、雨漏りや内部結露を防ぎ、シロアリ対策を行うことで、寿命30年をはるかに超える50年・100年の家も可能となるという。
 「自然素材の家は、時間と共に経年変化し、味わいが出てきます」
 西方さんは「家と会話する」と表現する。外壁材がシルバーグレーに、床材は飴色に変化してく。日々変わる表情を、20年30年と長く楽しめる家は、暮らしに彩りを添えてくれるかもしれない。

  • 外付けブラインドはプライバシーを守るほか、日射によるオーバーヒートも防いでくれる。
  • ガラスは断熱と日射のバランスが大切とか。寒冷地ではトリプルガラスがお勧め。

西方里見さん[建築家]

1951年秋田県能代市生まれ。室蘭工業大学建築工学科卒業後、青野環境設計研究所を経て、1981年に西方設計工房(現・西方設計)を設立。日本の風土に合わせた住宅や公共建築物などを設計。断熱住宅設計の第一人者として「建築知識」700号にて「日本の住宅を変えた50人+α」の一人に選ばれたほか、「サステナブル住宅賞」国土交通大臣賞などを受賞している。主な著書は『最高の断熱・エコハウスをつくる方法』(エクスナレッジ)など。