患者と家族に寄り添う専門看護師の仕事

 専門看護師をご存知だろうか。患者や家族に起きている問題を総合的に捉え、広い視野を持って、専門性を発揮しながら、看護の質の向上に努めるのが専門看護師だ。高屋敷麻理子さんは、がん看護専門看護師。現在は、岩手県立大学の講師としてがん看護専門看護師を育成している。
 高屋敷さんが東京のがん専門病院に勤務していた2005年ごろ、苦しい治療に耐え、がんと闘う女の子まゆちゃんの看護を受けもった。その儚くも強い命の輝きに相対した時、高屋敷さんの心に「もっとがん看護の経験を重ねたい」という強い思いが生まれた。当時の副看護部長であり、日本初のがん看護専門看護師からの推めもあり、緩和ケア認定看護師を目指すため、北海道医療大学へ。認定取得後、盛岡赤十字病院に転職。2015年、岩手県立大学大学院博士前期課程を修了し、がん看護専門看護師を取得した。高屋敷さんは今も、まゆちゃんが作った「シャープシン」という詩を折に触れて読み返す。

  • 退院した患者が、毎年病院に持ってきてくれる干支の刺繍。
  • がんと闘う女の子が書いた詩。高屋敷さんは講義で朗読するという。
  • 高屋敷さんの話し方は、とても穏やか。患者や家族に対してもゆったりとした態度で応じる。
  • 現場の看護師は日々、悩みながら前進している。高屋敷さんは、看護師の悩みの相談にも乗る。

 がんの種類やステージによって患者の状況が異なるので、がん看護や緩和ケアは臨機応変な対応が必要だ。答えは一つではない。高屋敷さんは、多岐にわたるがん看護専門看護師の役割のうち、特に倫理調整の重要性を話す。
「がん宣告されても、絶対に切除したくない。という患者さんもいらっしゃいます。家族は『なぜ説得してくれないんだ』と切実です。でも、当の本人は『切除しなくても治る』と信じてしまっている。そんな時は困りますね。それでも、患者さんが納得の上で『切除しない』選択をしたなら、その意思を受け止めます。もし、進行したらその時また、一緒に悩みましょう。その時の最善の治療を共に考え、決して見離さないことを大切にしています」と高屋敷さん。一人ひとりの治療方法や、選択に悩む患者と家族に寄り添える存在でいたいと話します。  医療チームの中で、多くの役割を担うがん看護専門看護師。専門知識があるため、治療方法や、投薬について医師に見解を伝えることもある。効率だけを優先し、一方的に知識を押し通しては、医師や看護師との連携に亀裂が生じてしまうことも。そんな時は、ぐっと自我を抑え、チーム全体で共に考え、悩み、答えを導き出すのを待つという。チームの力を信じて待つのだ。
 患者の力、また医療チームの力を信じて待つ。高屋敷さんのがん看護専門看護師としての姿勢は、大学で学ぶ生徒にも伝わっている。