〜誌面には載せきれなかった、取材場所の魅力をお届けします〜

ラ・クラのこぼれ話 第1回

2026年9・10月号のレギュラーコーナー「気になるお店」で取材させていただいたのは、岩手県奥州市で2026年にオープンした、石田食堂ワシントンさん。

遠くからでも目を引く看板が目印

老朽化とコロナ禍の影響により、廃業寸前だった旧石田温泉を立て直そうと一念発起したのは、芸術家の矢口かつ信さんだ。 茨城で昭和建築を活用したさまざまな活動を行っていた矢口さん。胆沢地域を訪れた際、戦後に建てられた昭和の雰囲気が残る青葉町の街並みに惹かれ、次第にこの地域との関わりが濃くなっていった。
そんな中、青葉町で足繁く通っていた老舗スナック「粋族館」の解体が決定。矢口さんはマスター特製の夜食カレーを引き継ぎ、近隣の空き店舗で「みちのく喫茶ワシントン」を開業した。
胆沢地域で活動する時間が長くなるにつれ、通うようになったのが旧石田温泉。ここでも、長年地域の人々に親しまれてきた場所が、廃業寸前の状態にあることを知る。

挑戦したいことで溢れている矢口さん

「若い世代でも、古く懐かしい場所が落ち着く人もいるんです」と矢口さんは言う。
このまま石田温泉がなくなれば、長年ここを拠り所としてきた地域の人々の居場所がひとつ消えてしまう。それだけでなく、これからこの場所に出合うはずだった人たちの機会まで失われてしまう。そう思うと、矢口さんは動かずにはいられなかった。石田温泉を引き継ぎ、住み込みで事業再建に取り組みはじめた。

とはいえ、再スタートは困難の連続。約30年間、適切なメンテナンスが行われていなかったため、次々と設備が故障していくありさま。ひとつ直せばひとつ壊れる、まさに「365歩のマーチ」状態。クラウドファンディングにも挑戦し、できるところはDIYで修繕しながら、懸命に営業を続けている。

はじめは建物の「古くてボロい」というイメージも強く、苦労も多かったとのこと。それでも、昔ながらの常連客に加え、サウナを目当てに訪れる人など、少しずつファンも増加中。
通うたびにどこか変わっていく様を目の当たりにできるのも、この場所を訪れる楽しみのひとつ。長い年月を刻んできた石田温泉だからこそ生まれる空気は、この場所ならではの魅力だろう。

そして、石田食堂ワシントンを語るうえで欠かせない存在が、もう一人。看板娘の大金恵子さんだ。

大金さんと矢口さんの交流は18年にも及ぶ。石田食堂ワシントンのオープンを機に、大金さんも矢口さんに連れられ茨城から岩手へとやって来て、石田食堂ワシントンに住みはじめることに。大金さんは矢口さんを「息子のよう」と言い、矢口さんは大金さんを「娘のよう(笑)」と言う。そんな関係性は、二人ならでは。建物と同じように、長い時間が築いてきたものがある。

矢口さんの“芸術の盟友”である大金恵子さん

「大金恵子」いうインパクトのある名前と、愛嬌のあるたたずまいから、大金さんは「石田食堂ワシントンの座敷わらし」とも呼ばれている。さらに、大金さんの誕生日は、アメリカの独立記念日である7月4日。店の名前の一部である「ワシントン」との不思議な縁を感じる。

矢口さんと大金さんをはじめ、石田食堂ワシントンのスタッフは個性豊かな人たちばかり。ここに来るとなんだか元気をもらえる、パワースポットのような場所だ。
普段の営業に加えて、マーケットや朝市など、ワクワクするイベントもたくさん開いている。人と人との縁がまた新しい縁を呼び、石田食堂ワシントンはますます面白い場所になっていく予感がしてならない。

取材では、看板メニュー「カツ烈もつカレー」を紹介した。プリプリのモツと、サクサクのカツレツの食感の違いが楽しく、お腹も心も満たされる一品。他にも、ナポリタンや麻婆丼、ルーロー飯などその時々によってバラエティー豊かなメニューがずらり。朝風呂朝市限定の「イングリッシュブレックファースト」なるメニューも。

もちもちのがんづきをお土産に買うこともできる。

もちろん、美人の湯として定評のある天然温泉もおすすめ。美味しい食事と気持ちの良い温泉で、日ごろの疲れもひとっ飛び。詳しい内容は、本誌9‐10月号「気になるお店」にて。