rakra style 対談 山や森にも想いを巡らせる【番外編】

杢創舎・澤口泰俊さん×岩泉純木家具・工藤林太郎さん

 「rakra」vol.97(2019年11・12月号)に登場した杢創舎代表取締役・澤口泰俊さんと岩泉純木家具専務・工藤林太郎さん。本誌では、ふたりの岩手県産木や山のあり方について語っていただいた。
 澤口さんは「100年生きた木を100年住める家としてつくる」と話し、工藤さんは「300年生きた木を300年持つ家具として生かす」という。それは、木に対する想いだけでなく、その先にある「山の再生」をも見据えたものである。
 その話については、本誌を読んでいただくとして、ここでは、誌面に掲載しきれなかったサイドストーリーを紹介したい。


杢創舎・澤口泰俊さん(左)と岩泉純木家具・工藤林太郎さん(右)

同じ樹種でも木目は異なる

 天然素材である無垢材には、自然に近い色合いや肌に伝わってくる温もり、室内空間の調湿作用などによって、私たちに安らぎや癒しを与えてくれる。その中でも、木目は視覚的にさまざまな効果をもたらすいわている。  ご存知のとおり、木目とは、木材の表面にあらわれる模様のこと。澤口さんは、「無垢材で建てた家は、木目の美しさを楽しむメリットがあり、その木が育ってきた歳月にも想いを馳せることができる」と話す。
 木目は、木の成長記録ともいえる年輪や水分を吸い上げる導管などによって形状が異なる。木目を生かした家具づくりをする工藤さんが詳しく説明してくれた。
 「同じ樹種でも、全く同じ形状になることがなく、育った場所でも異なるのです。年輪の幅も、寒い地域と暖かい地域では違うのです。同じ樹種なのに。でも、それがおもしろくて、いろいろな想像をさせるのです」と笑う。

木目にはドラマがある

 製材の仕方によっても、異なる模様があらわれるという。家の柱、家具の板は、1本の丸太をカットしてつくられる。カットするときに、丸太の中央の近くを切るとまっすぐな「柾目」になり、外側を切ると「板目」となり、波や山のような変化の富んだ模様となる。
 「さらに、『杢目』というものもあります」と澤口さん。「装飾性の高い模様が出た板のことをいいます。杢創舎の『杢』の字ですね」

  • 丸太を製材したあと、乾燥される
  • 丸太と中央から外れたところを切ると「板目」となる

 この杢目にも、いろいろあるらしい。笹の葉が折り重なったような模様の「笹杢」、タケノコを縦に割ったような「筍杢」、ウズラの羽のような模様の「鶉杢」など、さまざまだ。
 澤口さんは、「年配の中には節を好まれない方もいらっしゃる」という。
 「しかし、節があるということは、その先に枝があり、枝の先には葉があり、葉は光合成をし、私たちが生きていくために必要な酸素をつくってくれているのです。それに、100年も生きてきた木に節があるのは当たり前なのです」
 工藤さんも「柾目には柾目の良さがあり、板目には板目の良さがある」という。その良さを生かして、テーブルや椅子、箪笥をつくっている。
 「製材された材木の木目や、製品になった家具の木目を見ていると、ここに来るまで、どんなふうに生きてきたのだろうと考えることがあるのです。山のどんなところに生えていたのだろうかとか、冬は厳しかったのだろうか、節を見ても若いうちに枝が落ちたのだろうかとか。いろいろなことを抱えて300年も生きてきた、木のドラマ性を感じるのです。だから、300年持つ家具をつくりたいと思うのです」


盛岡市上米内に山林
山主によって、枝打ちや下草刈りなど、適切な管理が行われている
山頂付近と中腹では同じ樹種でも、製材すると木目が異なるという

 最近、木の家や家具に心地よさを感じるのは、不規則な木目の風合いに「1/fゆらぎ」が潜んでいるからともいわれているようだが、木目を生かした家や家具のよさは、空間にアクセントを与えてくれることも大きい。
 私たちの暮らしに欠かせない木を生かしたものづくりをしている澤口さんと工藤さん。ふたりの木に対する想いは深く、未来も見ている。


木目からその木の一生が感じられるという澤口さんと工藤さん