新しい八戸をつくる人たち

rakraではじまる旅便り 八戸編

 9月21日土曜日、連休の初日。いつもなら休日であることを確認して二度寝を決める時間。盛岡を発ち、八戸を目指す。年に一度の「本のまち八戸ブックフェス」が開催されるからだ。しかし今回はほかにも目的があった。
2週間前の9月7日、岩手県公会堂で開催されたクラフト市「瓢げ市/ひょうげいち」で、「6かく珈琲」の吉島康貴さんに出会った。rakra vol.93「もっと自家焙煎珈琲を。」でご紹介した吉島さんは、八戸でコーヒーの炭火焙煎をしている。私とは初対面だったが、吉島さんはとても気さくで、すっかり話し込んでしまった。そして帰り際に「それでは、近いうちに」といつになるのかわからない約束をしたのである。その後ブックフェスが開催されることを思い出すや否や、それを口実に八戸行きを決めた。吉島さんは「近くに来たらお電話ください」と快諾してくれた。
 
そして9月の連休初日。吉島さんの言葉にすっかり安心した私は、なんの用意もないまま、吉島さんの住居兼焙煎工房の近くまで来てしまったが、なにしろカフェはオープン前(令和2年春オープン予定)。それでも吉島さんは、勢いだけで来た私を奥の住居スペースに迎えてくださった。フィッシュマンズのゆるやかな曲が流れる中、かなり濃く淹れた口当たりの柔らかいコーヒーをいただく。今日の行程を話しているうちに、リノベーション中の店舗を見せていただけることになった。

  • 改装中の店内を案内する吉島さん。
    一階はカウンター席、二階はライブもできる空間を構想している。

店舗の改修作業を自らの手で行いながら精力的にイベントに参加し、コーヒーを提供している吉島さん。「イベントが一段落する冬が追い込み。まだまだやることがあるよ」と語る。
そんな中で、瓢げ市などのイベントに参加し続けている理由を尋ねると、「八戸に戻ってきたけれど、(交流とかイベントごとが少なく)物足りなさを感じたことがきっかけの一つ。それなら自分でやってしまえばいいじゃない」と、迷いのない表情をして答えるのだった。
最後に、気になっていた市の名前「瓢げ」の意味を尋ねると、古田織部の茶器を神谷宗湛が「へうげもの」と形容した、まさにその言葉から影響を受けているそう。変わった形をした茶器を見て「ひょうきん、滑稽」と評した。ひょうきんな、おどけた人たちの、肩肘張らず、楽しい市。実際に9月7日に私が瓢げ市で感じた居心地の良さが理解できた気がした。

  • 何度目かの撮影に「もういいでしょう」と照れる吉島さん。
  • 古田織部が主人公の漫画『へうげもの(山田芳裕、講談社)』を発見。

吉島さんのもとを離れ、ブックフェスの会場「はっち」へ向かう。
昨年訪れたときと同じく、トークイベントから見ることにした。八戸の「名物書店員さん」の本に対する熱い思いを感じた後、各ブースをまわった。そこかしこで出店者とお客さんの会話が弾んでいる。さらに「マチニワ」という開けた空間から流れる楽しげな雰囲気に、歩みを止める人も大勢いた。賑わっている会場の雰囲気を感じながら、このイベントに惹かれる理由を考えていた。欲しい物はインターネットで手に入る。それがぼんやりしたものでも、インターネットは膨大な候補から適切なものを選んでくれる。それはそれで素晴らしい。しかしここでは、意識の外からまったくあたらしい本(=知識、感情、出会い)をもたらしてくれる場なのだということに気付いたのだった。

  • 平成30年7月21日にオープンしたマチニワ。書店・出版社ブースと飲食店が出店し賑わっていた。
  • 歩道を歩く人を引きつける移動図書館。昭和41年に誕生して以来、現在も市内を巡回している。
  • 「ポップごと売ってる本屋さん」木村書店のポップ担当、及川さん
  • 筆者の購入した文庫本とポップ
  • カネイリ番町店に寄り道。カネイリ番町店・小井川さんがトークイベント冒頭で名物と話していた、たまごサンド。ふんわりしたパンに丁寧に焼かれたたまご。柔らかさの中にきゅうりの食感が弾む。

最後に訪れたのは、「Bronze Grill/ブロンズグリル」。rakra vol.96でキャンプ飯を指南してくださった、澤内昭宏さんの店だ。オーナーの澤内さんは東京・イタリアで修行の後、八戸市内で平成20年に「リストランテ澤内」をオープン。平成29年からは「澤内醸造」をスタート。ブロンズグリルはその中にあるバーガーショップである。
ワインを飲みたい気持ちをぐっと堪え、オーガニックコーヒーとブルーチーズバーガーをいただく。前述の通り寄り道をしてしまったのでラージではなくレギュラーサイズを注文する。それでもパティは厚く食べごたえがあり、またコーヒーは木樽のような香りと渋みをもち、赤ワインを思わせる。

偶然にも店舗に澤内さんがいらっしゃったので、話をさせていただいた。今日の行程を話しながら、離れた土地での暮らしを経験してなお、なぜ八戸を選んだのか澤内さんに尋ねると、「どんどん人が減ってるでしょう? ここのお客さんも多くは外国人の方。ここだけじゃなく他の市町村はもっと早くになくなるかもしれない」と語った。最後にこちらの目の奥をまっすぐ見据えながら力強く添えられた一言が印象に残っている。「でもだれかがやらないとね」
日も傾きかけて来た頃に澤内さんに別れを告げて盛岡を目指す。
帰り際に「へうげもの」の意味を考えていた。端正と違う、大胆、個性的な形の茶器。
表現方法は違いながらも八戸を盛り上げようとする人たちと、そこから浮かび上がる新しい八戸がまさに「へうげもの」なのかもしれない。